山中湖


湖畔から見た南アルプスの山々

 富士五湖の東端に位置する山中湖の景観は、他の四湖と比べ明るく開放的なイメージが強いと言われています。その形も湖畔の出入りが少なく三日月や鯨の形になぞらえられてきました。他の四湖が富士山からの溶岩の流入によって、起伏と出入りの激しい湖岸線を形成し、溶岩台地に青木ケ原に代表される鬱蒼とした針葉樹林が迫り、一種神秘的な景観を形成しているのとは対照的です。また、富士山の北側ではほぼ標高1,000mを境としてブナが局地的に見られますが、湖面標高982mの山中湖畔がブナなど夏緑広葉樹林やカラマツの二次林であることもこの明媚な景観に大きく影響しています。さらに、山中湖は西側をさえぎる山がなく、冬の晴れた日に雪をいただく南アルプスの山々を遠望することができます。私はかって赤石岳山頂から、富士山の麓に光る山中湖を見て感動した経験があります。直線距離で70km以上も離れた山中湖の湖面が見えることの不思議さと同時に、山中湖の西方が遠くまで開けていることを実感しました。
 湖岸の水際に目を移すと、山中湖は湖底に溶岩が流入しておらず、富士山の火山活動による「スコリア」が堆積し湖畔の浜を形成しています。このためシジミ漁や、地引網や巻き網などによる漁労が可能で、地域の人々の生活に貢献してきました。寒冷な地である山中湖村では大規模な農業経営を営むことができず、馬匹による駄賃づけと呼ばれる運送業が主な生活の手段であった時代を考えると、この恩恵はかなり大きなものであったと想像できます。


平野の砂嘴(さし)

 この湖底の大量のスコリアと西に開けた大地形は、山中湖に特筆すべき地形を創り上げています。「砂嘴」(さし)と呼ばれる地形です。砂嘴そのものはわが国でも各地に存在し、野付半島や天橋立などがその代表例ですが、通常、水の運搬作用によって海や河口、大きな河川などに形成されます。しかし、山中湖のような内陸の湖にどうして砂嘴ができるのでしょうか。平野の岬と呼ばれている場所がこの砂嘴ですが、スコリアが削られ細かくなった砂が西に開いた地形によってもたらされる偏西風の影響で、東端に運ばれ堆積した結果がこの砂嘴と思われます。
 以上のように、富士山の火山活動のみならず、気象や地形など様々な要因によって育まれた山中湖は、他に類を見ない誇るべき貴重な景観と自然を有しています。

NPO法人アースバウンダー
小野俊彦



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